〔『正法眼蔵』原本〕
これよりのちに、なほ山奥へいらんとせしちなみに、
有頌ウジュするにいはく、
一池荷葉衣無尽、 《一池イッチの荷葉カヨウ衣キるに尽くること無し、
数樹松花食有余。 《数樹の松花食ジキするに余アマリ有り。》
剛被世人知住処、 《剛イマ世人に住処を知らる、》
更移茅舎入深居。 《更に茅舎ボウシャを移して深居に入る。》
つひに庵を山奥にうつす。
あるとき、馬祖ことさら僧をつかはしてとはしむ、
「和尚そのかみ馬祖を参見せしに、得何道理トクガ ドウリ、便住此山ビンジュウ シザン《何イカなる道理を得てか、便スナワち此の山に住する》なる」。
師いはく、「馬祖、われにむかひていふ、
「即心是仏ソクシン ゼブツ。すなはちこの山に住す」。
僧いはく、「近日は仏法また別なり」。
師いはく、「作麽生ソモサン別なる」。
僧いはく、「馬祖いはく、非心非仏とあり」。
師いはく、
「這老漢シャロウカン、ひとを惑乱すること、了期リョウゴあるべからず。
任他非心非仏、我祗管即心是仏
《さもあらばあれ非心非仏、我れは祗管に即心是仏なり》」。
〔『正法眼蔵』私訳〕
その後、さらに山奥へ入ろうとした際に、詩偈を作って言った、
(これよりのちに、なほ山奥へいらんとせしちなみに、有頌するにいはく、)
この池の蓮の葉は着るのに尽きることがなく、
数本ある松の実は食べきれないほどある。
(一池の荷葉衣るに尽くること無し。数樹の松華食するに余り有り。)
今しがた世間の人に住みかを知られたから、
さらに茅葺きの家を移して奥深い所に入る。
(剛世人に住処を知られて、更に茅舎を移して深居に入る。)
遂に庵を山奥に移した。
(つひに庵を山奥にうつす。)
あるとき、馬祖はわざわざ僧を遣わして尋ねさせた、
「和尚はその昔馬祖に参じたときに、どのような道理を会得して、
この山に住むようになったのですか」。
(あるとき、馬祖ことさら僧をつかはしてとはしむ、
和尚そのかみ馬祖を参見せしに、得何道理、便住此山なる。」)
師は言った、「馬祖がわたしに向かって、即心是仏(この心がそのまま仏だ)と
言われた。それ以来この山に住むようになった」。
(師いはく、「馬祖われにむかひていふ、即心是仏。すなはちこの山に住す」。)
僧は言った、「近頃の馬祖の仏法はまた別です」。
(僧いはく、「近日仏法また別なり」。)
師は言った、「どのように別か」
(師いはく、「作麽生別なる」。)
僧は言った、
「馬祖は、非心非仏(心にあらず仏にあらず)と言われています」。
(僧いはく、「馬祖いはく、非心非仏とあり」。)
師は言った、「この老いぼれ奴、人をどこまで惑わす気か。
非心非仏がどうあろうとかまわない。わしはひたすら即心是仏だ」。
(師いはく、「這老漢、ひとを惑乱すること、了期あるべからず。
さもあらばあれ非心非仏、我れは祗管に即心是仏なり」。)
さらに茅葺きの家を移して奥深い所に入る『第十六行持』16-12-3b
合掌
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