〔『正法眼蔵』原文〕 芙蓉山 フヨウザン の楷祖 カイソ 、もはら行持見成 ゲンジョウ の本源なり。 国主より定照 ジョウショウ 禅師号ならびに紫袍 シホウ をたまふに、祖うけず、修表具辞す。 国主とがめあれども、師つひに不受なり。 米湯 ベイトウ の法味つたはれり。芙蓉山に庵 イオリ せしに、道俗の川湊 センソウ するもの 僅 ワズカニ 数百人 スウヒャクニン なり、日食粥 ニチジキシュク 一杯なるゆゑに、おほく引去 インコ す。 師ちかふて赴斉 フサイ せず。 あるとき衆にしめすにいはく、「 夫 ソ れ出家は塵労を厭い、生死を脱することを求めんが為なり、心を休め念を息め、攀縁 ハンエン を断絶す、故に出家と名く。 豈 ア に等閑 ナオザリ の利養を以て、平生 ヘイゼイ を埋没す可 ベケ んや、 直に須らく両頭撒開し、中間放下 チュウカンホウゲ して、声 ショウ に遇い色に遇うも、 石上に華を栽 ウウ るが如く、利を見 ミ 名 ナ を見るも、眼中に屑 ショウ を著 ツク るに似る、 況や無始以来、是れ曽て経歴 キョウリャク せざるにあらず、又是れ次第を知らざるにあらず、頭 ズ を翻 ヒルガエ して尾 ビ と作 ス るに過ぎず。止 タ だ此 カク の如くなるに於て、何を須らく苦々に貪恋 トンレン すべけん、如今 ニョコン は歇 ヤマ ずして、更に何れの時をか待 マタ ん。 所以に先聖人をして只今時を尽却せんを要す。 能く今時を尽さば、更に何事か有 アラ ん。 若し心中無事を得んには、仏祖も猶是れ冤家 オンケ のごとし、 一切世事、自然 ジネン に冷淡にして、方 ニ 始 ハジメ て那辺 ナヘン と相応す。 〔『正法眼蔵』私訳〕 芙蓉山の道楷禅師は、もっぱら行持現成の本源の人である。 (芙蓉山の楷祖、もはら行持見成の本源なり。) 国主より定照禅師の号と紫衣 シエ を賜ったが、師は受けず、上奏文を奉って辞退した。 (国主より定照禅師号ならびに紫袍をたまふに、祖うけず、修表具辭す。) 国主からお咎めがあったが、それでも師は受けなかったのである。 (国主とがめあれども、師つひに不受なり。) 薄い粥に堪えた話が法の味わい豊かに伝えられている。 (米湯の法味つたはれり。) 芙蓉山に庵を構える...