〔『正法眼蔵』原文〕
ひごろはつりする人にてあれば、
もろもろの経書キョウショ、ゆめにもかつていまだ見ざりけれども、
こゝろざしのあさからぬをさきとすれば、
かたへにこゆる志気シイキあらはれけり。
雪峰も、衆シュのなかにすぐれたりとおもひて、
門下モンカの角立カクリュウなりとほめき。
ころもはぬのをもちゐ、ひとつをかへざりければ、
もゝつゞりにつゞれりけり。
はだへには紙衣シエをもちゐけり、艾草ガイソウをもきけり。
雪峰に参ずるほかは、自余の知識をとぶらはざりけり。
しかあれども、まさに師の法を嗣するちから、辦取ベンシュせりき。
〔『正法眼蔵』私訳〕
出家するまでは魚釣りを生業とする人であったから、
いろんなお経は、夢にも見たことがなかったが、
道を求める志の深いことを先としたので、
同輩を越える意気込みがはっきり見えるようになったのである。
(ひごろはつりする人にてあれば、もろもろの経書キョウショ、ゆめにもかつていまだ見ざりけれども、こゝろざしのあさからぬをさきとすれば、かたへにこゆる志気シイキあらはれけり。)
雪峰も、僧衆の中で勝れていると思い、
門下で目立って勝れた人だとほめられたのである。
(雪峰も、衆のなかにすぐれたりとおもひて、門下の角立カクリュウなりとほめき。)
僧衣は麻や木綿などの布を用い、一着だけで着替えなかったので、
つぎはぎだらけであった。
(ころもはぬのをもちゐ、ひとつをかへざりければ、もゝつゞりにつゞれりけり。)
下着には紙の衣を用い、
綿の代わりによもぎの葉をつめて着たのである。
(はだへには紙衣シエをもちゐけり、艾草ガイソウをもきけり。)
雪峰に参ずる以外、ほかの善知識を訪ねることをしなかった。
(雪峰に参ずるほかは、自余の知識をとぶらはざりけり。)
そうであるが、
間違いなく師の法を受け継ぐ力を、修めたのである。
(しかあれども、まさに師の法を嗣するちから、辦取ベンシュせりき。)
合掌
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