〔『正法眼蔵』原文〕
つひにみちをえてのち、人にしめすにいはく、
「尽十方世界是ゼ一箇明珠イッカミョウジュ」。
ときに僧問トフ、
「承和尚有言、尽十方世界是一顆明珠。学人如何シュオ会得
《承るに和尚言へること有り、尽十方世界は是れ一顆の明珠と。
学人如何イカンが会得エトクせん》」。
師曰イハク、「尽十方世界是一顆明珠、用会作麼ヨウエソモ
《尽十方世界は是れ一顆の明珠、会エを用ゐて作麼ソモ》」。
師、「来日却問其僧《師、来日却つて其の僧に問ふ》、
「尽十方世界是一顆明珠、汝作麼生会
《尽十方世界は是れ一顆の明珠、汝作麼生ソモサンか会エせる》」。
僧曰、「尽十方世界是一顆明珠、用会作麼ヨウエソモ
《尽十方世界は是れ一顆の明珠、会を用ゐて作麼)》」。
師曰、「知、汝向黒山鬼窟裏作活計
《知りぬ、汝黒山鬼窟裏に向つて活計カッケイを作ナすことを》」。
〔『正法眼蔵』私訳〕
ついに道を得た後、人に法を説くにあたって言った、
「すべての世界は一つの光り輝く宝珠である」と。
(つひにみちをえてのち、人にしめすにいはく、「尽十方世界是一箇明珠」。)
その時、僧が尋ねた、
「和尚さんは、あらゆる世界は一個の明珠である」
と仰っているとお聞きしましたが、
学人(仏道修行者)はどのように理解したらよいでしょうか」と。
(ときに僧問、「承るに和尚言へること有り、『尽十方世界は是れ一顆の明珠』。
学人如何が会得せん」。)
玄砂は僧に言った、
「すべての世界は一つの明珠である、
ということを理解してどうするのか」と。
(師曰、「尽十方世界は是れ一顆の明珠、会を用ゐて作麼」。)
〔すでにすべての世界は一つの明珠だと言っているではないか。
それなのに理解するとかしないとか一体どこを見ているのだ。〕
玄砂は、次の日逆にその僧に尋ねた、
「すべての世界は一つの明珠である、
それをお前はどのように理解したか」と。
(師、来日却つて其の僧に問ふ、
「尽十方世界は是れ一顆の明珠、汝作麼生か会せる」。)
僧は、玄砂の口真似をして言った、「あらゆる世界は一個の明珠です、それを理解してどうするのですか」と。
(僧曰、尽十方世界は是れ一顆の明珠、会を用ゐて作麼)」。)
玄砂は言った、「分かったぞ、お前は黒山の鬼の巣窟に向かって(分別妄想の世界を対象にして)生活しているな」と。
(師曰く、「知りぬ、汝黒山鬼窟裏に向つて活計を作すことを」。)
〔自己を含めたすべての世界は一つの明珠であることを示したにもかかわらず、それを玄砂の口真似をして済まそうとした学人を戒められたのである。と同時に、道元禅師はまたこの黒山鬼窟も一つの明珠だと言われているのである。〕
合掌
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